GLM-5.3-Flash と Qwen3.8-Flash-Next——同じ $0.15 に、逆の削り方で着地した
8 月 26 日、76 分差でリリースされた二つの Flash モデル。定価はどちらも入力 $0.15/M でほぼ同着ですが、GLM-5.3-Flash は層とアクティブパラメータを半減させ、Qwen3.8-Flash-Next は 51B の N-gram Embedding をホストメモリに逃がすという、正反対の削り方でそこに到達しました。価格表・ベンチ脚注・ローカル実行のメモリ要件(192GB vs 75GB)を並べて読みます。

結論から。8 月 26 日に 76 分差で出た GLM-5.3-Flash と Qwen3.8-Flash-Next は、定価では ほぼ同じ場所に着地しました——入力 $0.15/M トークン、出力 $0.47〜0.50/M。違いは価格では なく、その価格を出すために何を削ったかです。GLM は層数とアクティブパラメータを 半減させる方向、Qwen は「知識」をパラメータごとホストメモリに逃がす方向。ローカルで 動かすなら要件は 192GB 級と 75GB 級で、こちらは倍以上違います。
HN のタイムスタンプで言えば、Qwen3.8-Flash-Next のスレッドが 8 月 26 日 12:52 UTC、GLM-5.3-Flash のスレッドが 14:08 UTC(ポイントは両方とも 8/27 採集時点で数百、なお上昇中)。同じ日の午後、Flash 級という価格帯が一晩で埋まりました。
まず対照表
| 項目 | GLM-5.3-Flash | Qwen3.8-Flash-Next |
|---|---|---|
| 総パラメータ | 320B | 125B + N-gram Embedding 51B |
| アクティブ / token | 18B | 6B |
| コンテキスト | 1M | ネイティブ 262K、YaRN で 1M |
| モダリティ | テキスト・画像・動画入力 | テキスト・画像・動画入力(OpenRouter 目録の記載) |
| API 定価(入力/出力、/M) | $0.15 / $0.50 | $0.15 / $0.47(OpenRouter 採集値) |
| いまの実売価 | $0.075 / $0.25(期間限定 50% オフ、9/9 24:00 UTC+8 まで) | 千问AI平台で 1 元 / 3 元(CNY 建て)※ |
| 重みライセンス | MIT | Qwen Community License 1.0(独自) |
| ローカル要件の目安 | q4 で約 160GB、現実的に 192GB 級 | 1-bit 量子化で 72.5GB、RAM 75GB 以上 |
※ API での提供名は qwen3.8-flash——公式ブログいわく「1M コンテキスト既定 +
公式ツール内蔵の生産版」で、開源重み版 Qwen3.8-Flash-Next とは名前が分かれています。
OpenRouter の $0.15/$0.47 もこの生産版 SKU の価格です。
価格の出典:GLM は Z.ai 公式価格表 (取り消し線付きの定価と 50% オフの実売価、期限 2026-09-09 24:00 UTC+8 と明記)、Qwen は OpenRouter 目録の 8 月 27 日採集値と Qwen 公式ブログの中国国内価格(人民元)。ローカル要件の 出典は後述します。
この割引の一行は読み飛ばさないでください。いま見えている GLM の $0.075 は 9 月 9 日で 終わる価格で、10 日からは表の定価に戻ります。9 月のコスト試算を今週の請求書から 外挿すると、ちょうど倍ずれます。
GLM の削り方:層を半分、注意を混合に
Z.ai の発表文の数字を並べます(いずれも同社の自己申告値)。 GLM-4.5 系と比べ、総パラメータはほぼ同じ(320B vs 355B)まま、アクティブパラメータを 32B → 18B、層数を 92 → 45 に半減。注意機構は線形注意とスパース注意の混合構造で、 線形側が局所依存を状態モデルとして圧縮し、スパース側が軽量 indexer で全域から関連 コンテキストを引く。1M コンテキストでの indexer 負荷を抑えるため、indexer のキー ベクトル 4 本を加重プーリングで 1 本に圧縮する IndexPool を入れています。
効果として Z.ai が出している数字は、8 日前に出たばかりの同社大型モデル GLM-5.3(テキスト専用・1M コンテキスト)比で注意計算 1/3.0、KV キャッシュ 1/4.4。 Artificial Analysis Intelligence Index v4.1.1 で 57 点を「1 タスク $0.045(割引価格時)」で 出した、という費用対効果の主張もありますが、これは割引期間の価格で割った数字である点に 注意してください。
つまり GLM の答えは「毎トークンに動く部分そのものを物理的に小さくする」です。 その代償は総パラメータの据え置き——重みは 320B 分あるので、ローカルで持つなら メモリはしっかり要ります。320B の q4 は単純換算で約 160GB(当方の算術)。HN では revolvingthrow 氏が「現実的な 最低ラインは 192GB」と算出し、既に 「M5 Ultra Studio の納期がまた延びる」という声も出ていました。
Qwen の削り方:知識をホストメモリに逃がす
Qwen の発表文は逆から来ます。主モデルは 125B に抑え、そこに 51B の N-gram Embedding を足す。普通の Embedding が単一トークンで 表を引くのに対し、N-gram Embedding は直前数トークンの並びで表を引き、頻出フレーズや 局所パターンの表現を「計算せずに参照する」層として持ちます。ポイントは置き場所で、 参照位置が事前に決まるため GPU ではなくホストメモリに置き、非同期プリフェッチで 計算と重ねられる——パラメータは増えるが、毎トークンの行列計算はほぼ増えない設計です。
注意機構は GDN + QSA のハイブリッド(4 層のうち 3 層が Gated DeltaNet、1 層が Qwen Sparse Attention)、residual stream は 4 分岐の Gated Residual。結果として アクティブは 6B/token、訓練コストは Qwen3.7-Plus の約 1/9(自己申告)。1M コンテキスト での QSA カーネルは Prefill 最大 7.6×・Decode 最大 4.9× の高速化、プレフィックスキャッシュ命中率 90% の条件では 1M Prefill スループットが Qwen3.7-Plus の 8.6 倍とされています。


重みのライセンスも一行で差が付きます:GLM-5.3-Flash は素の MIT、 Qwen3.8-Flash-Next は独自の「Qwen Community License 1.0」——書き出しは MIT 風に 寛容ですが、第 2 条に実務上の一刀があります:Model-as-a-Service や AI アシスタント 事業としての提供には別途商業ライセンスが要る(社内利用は免除)。自前 serving で 外部にサービスを売る読者は、この条文を先に読んでください。
もう一つ、この機体の立ち位置は発表文が自分で言っています:Qwen4 で使う構造の
先導プレビュー。Qwen3-Next の GDN + Gated Attention がその後 3.5〜3.8 系の土台に
なったのと同じ役割です。つまりこれは単発の廉価版ではなく、次世代の骨格を先に
市場でテストする機体で、コミュニティの対応投資(llama.cpp の qwen4exp アーキテクチャ
対応など)が無駄になりにくい、という読みができます。
ベンチの数字は同じ土俵にない
両社とも DeepSWE のスコアを出しています。GLM-5.3-Flash が 63.4、Qwen3.8-Flash-Next が 58.7。並べたくなりますが、脚注を読むとこの二つは別の実験です:
| 条件 | GLM 63.4 | Qwen 58.7 |
|---|---|---|
| ハーネス | mini-swe-agent | Claude Code と mini-SWE-agent の高い方 |
| コンテキスト | 400K | 256K |
| temperature | 0.95 | 1.0 |
| 実施者 | Z.ai(自己申告) | Qwen(自己申告) |
どちらも自社評測です。他社モデルの列について、Qwen は「Claude Code 評測フレームで 再評価し、修正後のベンチで基線を再実行した」と脚注に明記し、GLM 側は各ベンチごとに 自社実行のパラメータを付記しています(例外は GDPval-AA v2 のみ——これは第三者 Artificial Analysis の評測です)。この記事で言えるのは「両社とも前世代から大幅に伸びたと主張して いる」までで、63.4 と 58.7 の 4.7 点差を横比較する根拠はありません。ベンチの読み方に ついては編成 70.3 対 単体 62.6 の回で書いた原則の とおりです——条件表のない数字は、数字ではなく主張です。
ローカルで動くのはどっちか
自宅・自社サーバ勢にとって、今回の実質的な分かれ目はここです。
Qwen3.8-Flash-Next は発表当日から Unsloth の GGUF
が出ており、Unsloth のドキュメントは
「You will need at least 75 GB of RAM or unified memory to run the model」と書いています。1-bit 量子化で
72.5GB——この構造のせいで最小量子化が通常より大きい、とも明記されています。
HN では hedgehog 氏が Ryzen AI Max(Strix Halo)で生成 22 tok/s の初期実測を
報告し、llama.cpp のレシピまで貼っています。ただし新アーキテクチャ qwen4exp の
llama.cpp 本体対応は PR 待ちの段階で、ツールによっては数日のタイムラグがあります。
一言の注意:simonw 氏の初期テストは 1-bit 量子化(UD-IQ1_S)での結果に本人が疑問符を付け、より高い量子化での再試行に 向かっています。最小量子化の出力品質でこの機体を判定するのは早計、と読むべきでしょう。
GLM-5.3-Flash は MIT の重みが Hugging Face にあり、SGLang・vLLM 対応が公式に案内されていますが、320B の重みは q4 でも 160GB 級。 128GB のユニファイドメモリ機では入らず、現実的には 192GB 以上の構成が要ります。 moe-beyond-vram の回で見た「VRAM を超える MoE」の請求書が、 もう一段大きくなった形です。
まとめると:手元の 128GB 機で動かしたいなら選択肢は Qwen 側しかなく、API で使うなら 9 月 9 日までは GLM 側が半額——という、きれいに直交した構図です。
ルータから見た選び方
ルーティングの観点で最後に整理します。同価格帯に同日で二つ入った以上、「Flash 級」を 一枚岩として扱う理由はもうありません。分かれ目は三つです。
- コンテキストの実効性:GLM は公称 1M、Qwen はネイティブ 262K + YaRN 拡張。 長文タスクの品質はネイティブ長の内外で変わるのが通例なので、300K を超える入力を 流すルートは分けて評価する。
- 割引の期限:GLM の現価は 9/9 まで。期限をまたぐコスト比較は定価で。
- モダリティ:動画入力まで要るなら現状 GLM 側。
なお、この価格帯には先住者がいます——DeepSeek V4-Flash。ただしその公式価格表は 時間帯 × キャッシュ命中の二次元(オフピークはピークの半額、キャッシュ命中入力は ミスの数十分の一)で、どのセルで比べるかによって今回の二機より安くも高くもなります。 「どれが最安か」は自分のトラフィックのキャッシュ命中率とタイムゾーンを当ててから の話です(この構造は時間帯価格の回で書きました)。
ちなみにこの価格戦は二社だけの話ではありません。同じ週、OpenRouter のトップには 「Gemini 3.7 Flash is 75% off for a limited time」のバナーが出ていました(8 月 27 日 確認)。Flash 帯全体が期限付き割引で殴り合っている、というのが 8 月末の実情です。 割引には必ず期限がある——価格表を信じるより、期限をカレンダーに書くほうが役に立ちます。